Solanets Tech Essays / 001
KISA、AhnLab、ESTsecurity
韓国向けのフィッシングを調べていると、KISA、KrCERT/CC、AhnLab、ASEC、ESTsecurity、ESRCという名前が何度も出てくる。
ドメイン、HTML、JavaScriptまでは追える。ところがレポートを読み比べようとすると、「(AhnLabとASECは、どっちが会社なんやろ)」となる。KISAとKrCERT/CCの関係も、分かっているようで怪しい。
日本ならIPA、JPCERT/CC、セキュリティ会社と聞けば、だいたいの場所は浮かびます。韓国は名前を知っていても、その位置関係が頭に入っていなかった。
今回はフィッシングの調査を一度止めて、そちらから調べました。
KISAとKrCERT/CC
KISAはKorea Internet & Security Agency、日本語では韓国インターネット振興院です。
「韓国版IPA」と紹介されることが多いので、私もそのくらいに考えていました。
ところがKISAの事業紹介を見ると、サイバー脅威の監視や侵害対応、個人情報、セキュリティ産業、デジタル基盤まで、随分いろいろ出てくる。韓国のインターネット資源を扱うKRNICもKISAの中にあります。
「(これはIPAだけでは収まらんな)」
日本側へかなり乱暴に置けば、IPAに、JPCERT/CCとJPNICの仕事の一部まで入れたような組織です。
そのKISAが運営するインシデント対応と国内外の連携窓口がKrCERT/CC。仕事だけを見ればJPCERT/CCに近いですが、JPCERT/CCは特定の政府機関や企業から独立した中立組織です。同じCERT/CCでも、置かれている場所は違います。

AhnLabとASEC
AhnLabの方は会社です。V3というアンチマルウェア製品で知られ、現在はエンドポイント、ネットワーク、クラウド、セキュリティ運用などを扱っています。
ASECは、そのAhnLabの中にある脅威インテリジェンス組織です。現在の公式表記はAhnLab SEcurity intelligence Center。古い記事には“AhnLab Security Emergency response Center”という名前も出てきます。
略称はどちらもASECなので、何も知らずに検索結果だけを追っていると、会社名なのか、製品名なのか、分析チームなのかが少々分かりにくい。
ASECのレポートには、マルウェア、脆弱性、攻撃グループ、フィッシングについて、検体やコード、IoCを伴う分析が並びます。AhnLabという会社の製品や観測基盤があり、そこで見えたものをASECが分析している、と考えると分かりやすい。
ESTsecurityとESRC
ESTsecurityも会社です。アンチマルウェア製品ALYac、EDR、データ保護、脅威インテリジェンスなどを扱っています。
ESRCはESTsecurity Security Response Centerの略称で、ESTsecurityの中で、マルウェアやフィッシング、メール脅威を追っている組織です。
今回の調査では、同じテーマのレポートを遡って読めたことが助かりました。一回のスキャン結果ではその日のドメインやページは分かっても、攻撃側が少しずつ道具や話題を変えてきた経緯までは見えません。
IoCを横に並べるだけでは見えなかったものが、過去の記事を順に読むと少し見えてくる。ESRCは、以前の動きから何が変わったのかを調べる時によく見ました。
韓国と日本を比較すると……
KISAを「韓国のIPA」、AhnLabを「韓国のセキュリティ会社」とすれば、入口としては分かりやすい。ただ、仕事が近いことと、組織や会社の大きさが近いことは別なので、一緒にすると少し変になります。
まず役割を並べると……
| 韓国 | 位置付け | 日本側で考える時の手掛かり |
|---|---|---|
| KISA | サイバー対応からデジタル基盤まで扱う公的機関 | IPA、JPCERT/CC、JPNICの仕事の一部 |
| KrCERT/CC | KISAが運営するインシデント対応・連携機能 | 仕事としてはJPCERT/CCに近い |
| AhnLab / ASEC | 総合セキュリティ企業と脅威分析組織 | 製品会社と、そのリサーチ部門 |
| ESTsecurity / ESRC | セキュリティ企業と脅威対応・分析組織 | 専門会社と、そのリサーチ部門 |
これは「同じ組織」という表ではなく、韓国の資料を読む時に、最初の置き場所を決めるためのものです。
会社の大きさも並べてみます。
| 企業 | 従業員数 | 集計範囲 | 集計日時 |
|---|---|---|---|
| ESTsecurity | 179名 | 同社 | 2025年1月 |
| FFRI Security | 236名 | 連結 | 2026年3月31日 |
| ソリトンシステムズ | 655名 | 連結 | 2025年12月 |
| AhnLab | 1,270名 | 単体 | 2026年3月31日 |
| ラック | 2,467名 | 連結 | 2026年3月31日 |
| トレンドマイクロ | 6,717名 | 連結 | 2025年12月31日 |
AhnLabは、人数でいえばソリトンシステムズとラックの間。ESTsecurityはFFRI Securityに近い。ただし単体と連結、集計した時点も揃っていないので、大きさを何となく掴むための数字です。
ここまで整理してから、最初のフィッシング調査へ戻りました。
同じ攻撃を扱っていても、KISAやKrCERT/CCの資料には通報や対応の話が出る。ASECには検体やコードの話が多く、ESRCの記事を遡ると、同じ攻撃がどう変わってきたのかを追いやすい。
それまで私は、KISA、ASEC、ESRCをまとめて「韓国の情報源」と見ていました。実際には、同じものを見ているわけではない。レポートを開く前に名前を確認するだけで、何が載っていそうかは、だいぶ見当がつくようになりました。
このやり方で台湾も並べられると思ったのですが、そちらはそう簡単ではありませんでした。続きは#002で。
出典
- KISA — Korea Internet Security
- KISA — Organization
- KRNIC — About Us
- JPCERT/CC — JPCERT/CCとは
- AhnLab — About ASEC
- AhnLab — 2026年第1四半期報告書
- ESTsecurity — ESRC
- ESTsecurity — Company Profile 2025
- FFRI Security — 有価証券報告書
- ソリトンシステムズ — 会社概要
- ラック — 会社情報
- トレンドマイクロ — 会社概要
Series
- #001 韓国のサイバーセキュリティを読み解く(この記事)
- #002 台湾のサイバーセキュリティを読み解く
- #003 Naverフィッシング調査録(予定)